今年も桜の咲く季節になりました。桜の花が散ったあとにはさくらんぼが美味しい季節がやってきます。
桜の実がさくらんぼだとするなら、お花見で見ることの多いソメイヨシノにもさくらんぼは実るのでしょうか。
ソメイヨシノについて
桜は野生種、自然交配(交雑)種、園芸種を合わせると600種以上あるといわれています。しかしいろいろな桜がある中で、桜の開花宣言といえばソメイヨシノの開花のことを指しています。
なぜソメイヨシノが咲くと開花宣言なのか
気象庁の生物季節観測で開花日などを観測するために定められた草木を標本木といいます。標本木は各地の気象台や測候所の構内にあるソメイヨシノ、また構内にない場合は庁舎から近い場所の公園などにあるソメイヨシノと決まっています。
開花宣言にソメイヨシノが使われるようになったのは、ソメイヨシノは全国に分布していることがあります。なんと日本全体の桜のうちで7~8割がソメイヨシノといわれているほど、どの地域でも見ることができるのがひとつめの理由です。
そしてもう一つの理由はソメイヨシノは接ぎ木で増やされた同じ遺伝子を持つクローン桜なので、気候が同じなどの条件があれば一斉に開花します。この2つの理由から開花宣言がしやすい桜なのです。
ただソメイヨシノの北限は美唄市、南限は鹿児島県の種子島なので、美唄市より北はエゾヤマザクラやチシマザクラ、種子島より南はヒカンザクラで観測します。
桜とさくらんぼ
桜はバラ科サクラ属で、さくらんぼもバラ科サクラ属の植物です。しかし桜には観賞用の桜と果実のための桜があり、ソメイヨシノは観賞用の桜です。さくらんぼのできる桜は実桜(みざくら)といい、観賞用の桜とは違って実を収穫するための桜です。
さくらんぼは別名「桜桃(おうとう)」ともいい、東洋系とヨーロッパ系を合わせると1000種類以上あるといわれていて、今でも世界中で品種改良が進められているようです。
日本で栽培されているさくらんぼはヨーロッパ系が多く、よく知られている佐藤錦も日持ちは良いけれど酸味の強いヨーロッパ生まれのナポレオンに、味は良いけれど日持ちのしない黄玉(きだま)を交配させてできたものです。
写真は佐藤錦の花ですが、観賞用の桜の花と違って白いですね。
さくらんぼの名前の由来
さくらんぼってなんだか可愛い響きです。響きだけでなく由来も可愛くて「桜の子ども」という意味で「桜の坊」と呼ばれていました。
そのうち桜の坊の「の」が「ん」に変化し、「坊」が短母音化して「さくらんぼ」になったといわれています。
ソメイヨシノとさくらんぼ
ソメイヨシノは花を観賞する桜で、基本的には実はできません。というのも、桜の多くは「自家不和合性」という自身の花粉で受粉させても実をつけにくい性質があります。ソメイヨシノも同じなのですが、ソメイヨシノは先ほども書いたように同じ遺伝子を持つクローン桜です。
自分自身の花粉では受粉できない、クローン桜なので周りのソメイヨシノも自分と同じ遺伝子ということになり、周りのソメイヨシノの花粉でも受粉できませんので、結局のことろ実(さくらんぼ)はできません。
ところが稀にソメイヨシノにさくらんぼができることがあるのです。
ソメイヨシノのさくらんぼ
このようにさくらんぼができるはずがないソメイヨシノですが、近くにソメイヨシノ以外の桜の木があった場合、その桜の花粉と受粉してさくらんぼができることがあります。
ソメイヨシノのさくらんぼは最初は写真のような色だったのが、だんだん熟して黒紫のような色になります。実は小さくて渋みというか苦みがあり、食べても毒ではないですが美味しくないので食用にはならないと思います。動物や鳥は食べます。ただ鳥はソメイヨシノの実だけではなく、南天だろうがウメモドキであろうがピラカンサであろうが、赤い実であれば食べますけれど…。
このようにソメイヨシノの木になっているさくらんぼは純粋なソメイヨシノのさくらんぼではなく、ソメイヨシノとソメイヨシノ以外の桜でできた交雑種のさくらんぼということになります。
また逆にソメイヨシノの花粉が別の桜に付いて受粉させていることもあります。
もしソメイヨシノとその近くにソメイヨシノ以外の桜が咲くような場所があれば、さくらんぼができている可能性もありますので、花が散り葉桜になった頃に探してみてはいかがでしょうか。
大阪の標本木は大阪城公園の西の丸庭園内にあります。
2022年3月21日のニュースでご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、心無い人によって枝が3本折られてしまったようです。きちんと「大阪管区気象台指定 生物季節観測用標本 そめいよしの」というプレートもありますし、なにより桜は枝折れすると腐ってしまうことがあります。被害届を出されたとのことですが、お花見に行って枝を折るようなことはおやめください。