植物は水と光と空気、そして適温であればそれなりに育ってくれますが、元気に育てるためにはバランスの良い肥料を与えなくてはいけません。
ひと口に肥料といっても固形のものや液体のもの、即効性のものや緩効性のものなどたくさんの種類があります。今回はそれぞれの肥料の特徴などを書いてみます。
肥料とは
自然界の肥料と自分で育てる植物の肥料
自分で育てている植物には定期的に肥料を与えますが、誰も管理していないような野原で育っている植物に誰かが肥料を与えているなんていう話は聞きません。肥料を与えていないのに増えていき、花も咲かせます。
それは自然界に育つ植物が強いから肥料は不要なのではなく、落ち葉や枯れた植物、動物の糞や昆虫の死骸などが分解され、自然の肥料として利用されているのです。でも家庭で育てている植物だと、それらのものは私たち人間が取り除いてしまうので、自然のようにはいきません。
また野生植物が必要とする養分より、園芸品種の場合は大きな花を咲かせたり実を付けたりするため多くの養分を必要としますので、人工的に養分を与えてあげなくてはいけません。
植物にとって必要な養分・肥料
植物は16種類の成分から構成されています。
16種類のうちで炭素、酸素、水素という3種類で約90%占めており、残りは窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、モリブデン、銅、塩素です。
炭素、酸素、水素については水や空気中から吸収されますので、なにもしなくても問題ありません。しかし残りの13種類の成分に関しては肥料として補わなくてはいけません。
特に窒素、リン酸、カリウムは【肥料の三要素】といわれ大量に必要とします。
窒素(Nitrogen)リン酸(Phosphoric acid)カリウム(Kalium)
頭文字をとってNPKと略します。
カルシウム、マグネシウム、硫黄は中量要素といわれており、大量要素の次に必要な肥料成分です。また鉄、マンガン、ほう素、亜鉛、モリブデン、銅、塩素の7種類は微量要素といわれ、文字通り0.01以下程度必要な成分です。
植物はこれらの肥料成分をバランスよく与えることが健全に育つことに繋がります。ではどのような肥料があるか見ていきましょう。
肥料の種類を大きく分けると2種類
肥料は大きく化学肥料と有機肥料に分けられ、それぞれの特徴は次のようになります。
化学肥料
鉱物などの無機物を原料としたものを無機質肥料といいます。無機質肥料には窒素、リン酸、カリウムの三要素が単独になった「単肥」と、単肥を数種類混合した「複合肥料」があり、複合肥料の中でも単肥や複合肥料を成形加工したものを「化成肥料」と呼びます。
化成肥料はすぐに根に吸収される速効性のものが多く、誰にでも扱いやすいのが特徴で、成分比や形はさまざまです。
固形肥料
速効性のある化成肥料ですが、加工することで緩効性のものもあります。土に置いたり土に混ぜたり、ばらまいて使う肥料です。
速効性化成肥料の場合、すぐに溶けてしまうため肥料障害を起こすこともありますので、使用回数や使用量には注意が必要です。
緩効性化成肥料は、肥料の表面をコーティングしたり、溶け出す量をコントロールしたりしてゆっくり溶けていくように加工した化成肥料です。効果は数カ月から数年続くものがありますので、育てている植物によって使い分けると良いでしょう。
液体肥料
液体肥料には原液をそのまま使うものと、水で薄めて使うものがあります。
そのまま使うタイプのものは、はじめから植物に適した状態の液体が入っています。とても手軽で便利なのですが、たくさんの植物に与えようとしたら割高になります。
水で薄めるタイプのものは、高濃度の成分になっていますので、育てている植物によって濃度の調整を自分でやらなければいけません。しかしほとんどの場合500倍とか1000倍に薄めて使用するため、1つあればけっこう長持ちします。
そのまま原液で与えるタイプのものは、最初に水やりをして土を濡らしてから肥料を与え、肥料の後からも水を与えるようにしてください。水で薄めるタイプのものは、水やりの際に希釈液を与えてもらって問題ありません。
スプレー液
養分を葉から吸収させる、葉面散布用の肥料です。根が弱って肥料を吸収できない時や、葉色が悪い時などに使うと効果的です。吸収を良くするために先に葉を洗うか拭くかをした後、葉が乾いてからスプレーしてください。
あくまでも肥料です。葉が乾燥しているからという理由で、葉水のようなつもりで与えると枯れることがありますのでご注意ください。
スティックタイプ
プランターや鉢に差し込むだけの肥料です。
土に差しておくと徐々に成分が溶けていき、効果が一定期間続きます。ハンギングバスケットや寄せ植えなどに数か所差し込んでおくとバランスよく生育してくれます。
また庭木用のものは追肥のための穴を掘らなくていいので便利です。水生植物用のスティック肥料もあります。
有機肥料
植物や動物など、天然のものを原料にした肥料で、微生物の力を利用して分解発酵させ根から吸収させます。
緩効性肥料のためゆっくりと効き、効果も持続しやすいのが特徴です。よく使われる有機肥料は次のようなものがあります。
油かす
植物の種から油を取った後に残る搾りかすのことで、いろいろな種類のものがありますが、大豆や菜種の油かすが一般的です。
肥料の三要素である窒素、リン酸、カリウムのうち窒素分が多いのが特徴で、ほかの肥料と合わせて使うことが多いようです。
油かすは発酵してから植物に吸収されますが、発酵過程で根にとって有毒なガスが発生します。使用する時は根に触れさせないように施すようにしてください。植え付けの際に使用する時は、土に混ぜてから2~3週間程度おいてから植え付けするようにお願いします。土の表面に蒔くとコバエが発生することがありますのでご注意ください。
また発酵前の段階では臭いがします。土に入れる時は深めに穴を掘って上から土を被せましょう。マルチングをすることも臭い対策に効果があります。
骨粉
豚や鶏などの動物の骨を乾燥させてから粉砕したものです。少しの窒素とたくさんのリン酸を含んでおり、油かすや草木灰などと一緒に混ぜて使われます。カリウムはほどんどありません。
ゆっくりと時間をかけて効いていく肥料なので、追肥としてではなく元肥として使います。
鶏糞
ニワトリの糞を加熱、乾燥、発酵させたもので、三要素である窒素、リン酸、カリウムが比較的バランスよく含まれた肥料です。
ただ発酵が不十分なものだと独特な臭気を出し、ガスで根を傷めることになりますので、根に直接触れないように施すようにしてください。臭いが気になる場合は、ペレット状に加工されたものを選ぶと良いでしょう。
魚粉
魚を乾燥させて粉砕したものです。窒素とリン酸を多く含んでいますが、カリウムは含まれていないため草木灰などと一緒に使うようにしてください。
この魚粉もなかなかの臭気があります。臭いを抑えた商品もあるようですので、お試しになってください。
草木灰
落ち葉や枯草などの草木を燃やしてできた灰のことで、カリウムを多く含んでいます。同じ葉を使った腐葉土と違って、有機物が燃えてなくなったもののため、残ったカリウムが多くなっているのです。
アルカリ性なので、酸性になった土壌を中和させるためにも使われます。
米ぬか
玄米を精製する時に取り除く外皮のことを米ぬかといいます。
米ぬかは昔から美肌に良いといわれていて、石鹸の代わりにぬか袋というものを使って体を洗ったりしてきました。美肌以外では肥料にも使われます。
米ぬかには三要素である窒素、リン酸、カリウムのほか、ビタミンやミネラルも豊富に含んでおり、肥料としてバランスがよく、微生物の活性化も促してくれます。
その反面、タンパク質も多く含まれるため、虫も寄せ付けやすいです。またカビも発生することもありますので、使う際には注意してください。
肥料を施す時の注意点
肥料を頻繁にたくさん与えるといっぱい花が咲くとか、大きく成長するということはありません。適切な量の肥料を適切な時に与えるとたくさん花が咲き、大きく成長してくれます。
よく何日に一度肥料をやればいいですか?ということを聞かれますが、間隔はその植物によっても季節によっても状態によっても異なるため、何日に一度ということは分からないのです。
与え過ぎは根を傷めたり病害虫の原因になったり、植物の生育に悪い影響をもたらす場合もあります。肥料は植物の成長を助けるものなので、植物の様子を見ながら良いタイミングに与えるようにしてください。
また弱っている時に肥料を与えるのはダメです。病気の人にこってりとしたご馳走を食べてと言っても無理なのと同じように、植物も弱っている時は水だけ与えて様子をみるようにしましょう。
液体肥料の場合、つい適当に水で薄めがちですが、ある程度はきちんと量って作るようにしてください。3Lのジョウロで量った場合、1000倍ならば3ccの原液を、500倍なら6ccの原液を溶かします。ジョウロのほか、バケツやペットボトルなど水量がわかるものを使って希釈液を作ると良いと思います。
水で薄めた状態での作り置きは成分が変質することがありますので、作った液肥はその日のうちに使い切ってください。
有機肥料の場合、臭いの強いものが多くあります。
これは私の子供の頃の経験なのですが、家の近所にベランダで花か野菜かを育てていらっしゃるお家がありました。有機肥料に拘っていらっしゃるらしく、いつも肥料の臭いが近所中に漂って窓を開けるような季節は大変でした。
ご近所ということもあり、どのお家も文句を言いに行くことはなかったようですが、できれば住宅地でお使いになる肥料は臭いの強いものは避けていただき、ペレット状に加工されていて臭いの少ない肥料をお使いになられたほうが揉め事に発展しないのではないかと思います。
化学肥料と有機肥料の使い分け
化学肥料と有機肥料を比べると有機肥料が自然栽培ぽくていいよねと思われがちですが、決してそうではありません。
化学肥料は速効性が高く、有機肥料はゆっくりと効いてくれるという特徴がありますので、その性質を利用して元肥や寒肥には有機肥料、追肥には速効性のある液体の化学肥料、置き肥には緩効性のある化学肥料というように使い分けていただくことをおすすめします。