9月といえばお月見、中秋の名月です。そしてお月見で飾る花といえば秋の七草、ススキ、クズ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウ、ハギです。
春の七草(セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ)は覚えやすいのに、秋の七草って覚えにくいような気がする、という方もいらっしゃるようですが、「おすきなふくは」で覚えると簡単です。
- お:オミナエシ
- す:ススキ
- き:キキョウ
- な:ナデシコ
- ふ:フジバカマ
- く:クズ
- は:ハギ
今回は秋の七草の中に入っている植物と外来種の関係をお話ししたいと思います。
植物の外来種について
植物の外来種と聞いて思い出すのは、セイヨウタンポポやアメリカオニアザミなどいろいろとありますが、その中でどこでも目にするセイタカアワダチソウはよくご存じだと思います。
北アメリカ原産のセイタカアワダチソウは種子から増えるだけでなく、地下茎でも増えていきます。また繁殖力が強いことに加えてアレロパシー物質というものを地下茎などから放出し、周囲の植物の生育を阻害するため、その場所では他の植物が育たなくなり、セイタカアワダチソウが爆発的に増えるという結果に結びついています。
このように日本では海外からの外来種が大きな問題になっていますが、逆に日本で古くから親しまれている植物が、海外では侵略的外来種になっているケースはないのでしょうか?
実はあるのです。それが先ほど紹介した秋の七草に含まれている「ススキ」と「クズ」です。
海外におけるススキとクズについて
ススキについて

ススキは尾花やカヤともよばれ、全国各地至るところの山野に自生するイネ科多年生の植物です。
お月見のお飾りにはかかせないススキは秋を感じられますし、万葉の時代から詩歌に詠われてきた植物なのですが、アメリカでは問題になっているといいます。
ススキは明治時代に観賞用(オーナメンタルグラス)としてアメリカに渡りました。アメリカにお月見の習慣があったわけではないのですが、明治時代の西洋では日本の植物や庭園文化がブームになっていたようです。その中でススキの穂の美しさや風に揺れる姿や風情が評価され、庭園を彩る草花として意図的に持ち込まれました。

アメリカに渡ったススキの遺伝子を解析すると、関東から西日本あたりに由来する系統のものだということがわかっています。
なぜススキが問題になったのか?
種子が風によって遠くまで運ばれる
ススキは一株でたくさんの種子を作ります。庭園の中で楽しんでいたはずだったのに、種子が風によって運ばれて庭園外に飛んでいき、またそこから遠くまで運ばれるという繰り返しで野生化していきました。
環境適応能力が高い
本来ススキは栄養分の少ない痩せた土地でも育つという強い植物です。風によって飛ばされた場所が痩せた土壌でもどんどん生長し、アメリカ在来の草本植物を追い出して群生を作るようになりました。
1940年代にはすでに東部アメリカで野生化したススキが多数報告されており、ワシントンD.C.では帰化していると記録されています。
クズについて

次にクズですが、こちらも外来侵略植物の代表です。クズはマメ科クズ属のつる性の多年草で、日本では根を用いて食材にしたり漢方薬に使うことでお馴染みの植物です。

私は葛まんじゅうが大好きですし、風邪気味だと葛根湯を服用します。
クズがアメリカに渡ったのは1876年に開催されたフィラデルフィア万国博覧会において、日本館の展示植物として紹介されたのがきっかけだと言われており、来場者は紫色の花や旺盛な成長力や、強い日陰を作る能力に魅了されました 。
またススキと違い、観賞用だけでなく役に立つ植物として積極的に推進されていたのです。当時は
- 日よけ
- 家畜の飼料
- 土壌の流失防止
- 紙や繊維の原料
として、アメリカ政府がクズの植栽を奨励していたそうで、なんと農家には植える補助金まで出していたそうです。
なぜクズが問題になったのか?
圧倒的な成長速度
クズは最盛期には1日に数十cmも蔓を伸ばし、樹木を覆いつくしてしまいます。覆われた樹木は光合成ができなくなって枯死し、森林の生態系が壊滅的なダメージを受ける事態に陥ります。
また樹木だけでなく、家屋、標識、電柱、送電線まで覆いつくしてしまい、停電を引き起こしインフラの被害も多く出ているということです。
根が深い
1990年代に有害な雑草に指定され、退治するための費用をかけているようですが、なかなか根絶には至らないのが現状です。
そのひとつに根が地中深く張り巡らされ、除草剤や重機でも駆除しにくいというのがあります。また日本では昆虫や菌類が繁殖を抑えているということもありますが、アメリカにはクズの天敵になるような昆虫がいないというのも増え続ける原因のひとつです。
日本では秋の訪れを感じさせる情緒豊かなススキや、葛餅や葛根湯として生活を健やかに彩ってくれるクズですが、海を渡った途端にインフラを脅かし、生態系を破壊する「最強の侵略者」に変貌してしまう姿には、驚きを禁じ得ません。
しかし彼ら自身が突然変異したわけではありません。天敵や日本の気候という自然のブレーキが効かない場所へ人間が持ち込んだ結果、秘められた生命力が解き放たれてしまっただけなのです。
一方で日本で生態系被害防止外来種に指定されているセイタカアワダチソウですが、アメリカでは葉や根を食べる昆虫、病原菌の他、競合する植物が存在するため、日本のように生態系を変えてしまうようなことにはなっていないようです。
日本における外来種、海外における外来種、これらは植物が持つ凄まじい適応力と、生態のバランスが生み出したものなんですね。道端で風に揺れるススキや力強く伸びるクズの姿を見かけたときは、秘められた力強いドラマに少し思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


