植物は光の波長や方向、強さを感知しています。目も神経もない植物がどうして光の場所を知り、枝や葉を光の方へ伸ばすことができるのでしょうか。
光を好んでいるから光に向かって伸びるものと考えてしまいますが、植物は部位によって「光に向かう(正の光屈性)」性質と「光から逃げる(負の光屈性)」性質を使い分けています。私たちが目にする茎や葉が光の方へ伸びるのは、こうした性質が関係しているのです。
植物は光を探すと同時に逃げている
ある番組の会話を借りると、こんな感じになるでしょうか。
- ねえねえ○○、植物が光の方向に伸びるのはなんで?
- それは、え~っと、植物が光を好きだから!
- ボーっと生きてんじゃねーよ!植物が光の方向に伸びるのは、見えていないものが光から逃げているからぁ。
ということなんですが、まずは「正の光屈性」と「負の光屈性」のお話からすることにしましょう。
光へ向かう「正の光屈性」
窓辺に置いた植物の茎が、気が付いたら窓のほうに向かって伸びていたという経験はありませんか?あれは正の光屈性によるものです。

この現象は植物の体の中で何が起きているのでしょうか。
植物には光を感じ取る仕組みがあります。その役割を担っているのが「フォトトロピン」という光受容体で、光がどの方向から当たっているのかを感知することができます。
光を感じ取ると、植物の体内では「オーキシン」という植物ホルモンの働きによって、光が当たらない側の茎と当たる側の茎で細胞の伸び方に差が生じます。オーキシンは光の当たらない側に多く分布するため、当たらない側の細胞がより大きく伸長し、結果として茎は光の方へと曲がっていきます。これが正の光屈性の仕組みです。
植物が「光が欲しいな」と考えて光の方へ伸びているわけではありません。フォトトロピンが光を感じ取り、体内のホルモンや細胞の働きが変化することで光の方向へ曲がっているのです。
光を避ける負の光屈性
植物の茎が光の方向へ曲がって伸びる現象を「正の光屈性」と呼ぶのに対して、光を避けるように伸びる現象を「負の光屈性」といいます。この負の光屈性は、根にも見られます。

では、なぜ根は光を避けるのでしょうか。根の役割を考えてみましょう。根には土の中から水分や無機養分を吸収すること、そして植物の体を支える役割があります。もし根がすべて地上に出てしまうと乾燥しやすくなり、水分を失うおそれがあります。
根が光を避ける性質を持っているのは、こうした生育環境とも関係していると考えられます。そして面白いことに、根が光に反応して成長する仕組みにも、植物ホルモンの「オーキシン」が関わっているのです。
ただし茎と根ではオーキシンに対する反応が異なります。
- 茎の場合:オーキシン濃度が高くなると生長は促進される
- 根の場合:オーキシン濃度が高くなると生長は抑制される
茎ではオーキシンが多い側の細胞がよく伸びますが、根ではオーキシンが多くなると、細胞の伸びが抑えられることがあります。このように、同じオーキシンでも茎と根では働き方が違うのです。
根の重力屈性
しかし根が地中へ伸びていくのは、負の光屈性だけが理由ではありません。根が下へ伸びる大きな要因は、重力に反応する「正の重力屈性」です。つまり根は重力に従って下へ伸びる性質を基本としながら、光を避ける性質も備えているのです。
正の光屈性と負の光屈性と重力屈性、これをどう図に描けば良いか悩んでいたのですが、ふと思いついてAIにこの記事の大まかな内容を伝え、なにか良い図はないでしょうかと尋ねてみたところ、とても綺麗でまるで写真のような絵を作ってくれたんです。感動ものでしたが、「もっと簡潔に」「もっと単純に」と何度も描き直しをお願いして、最後に仕上げてくれたのが次の絵です。

例外の植物
さて、今までは茎は正の光屈性と説明してきましたが、全ての植物の茎は光に向かって伸びるのかといいますと例外もあります。
一般的に茎は光に向かう「正の光屈性」を持っていますが、植物の生存戦略は非常に多様です。植物の中には、環境や成長段階によって茎が光を避けて暗い方へ伸びるものもあります。
代表的な例がツタなどの木に登るタイプのつる植物です。例えばセイヨウキヅタでは、発芽直後の個体や地面を這う茎が「負の光屈性」を示し、木の幹を探すのに役立つことが研究でも確認されています。

これは育つ環境に合わせた植物なりの工夫と考えられます。木々の葉に光が遮られた暗い林床では、あえて暗い方向へ伸びることが体を支えてくれる木の幹を見つける手がかりであり、近道なのです。そして成長して木の幹を登るようになると「正の光屈性」を示し、光を求めて上へと伸びていきます。すると光の届く場所へたどり着くことができます。
その他にも、過剰な直射日光や乾燥から身を守るため、発芽直後の段階で一時的に「負の光屈性」を示す植物もあります。
では例外的な性質を持つ植物の根はどうなのでしょう。
実は、どの植物も根には「地下へ潜り、水分や養分を吸収する」という根本的な使命があります。そのため、根は下へ向かう「正の重力屈性」と、光を避ける「負の光屈性」の両方を持ち続けています。
つまり、つる植物のように「茎があえて暗い方へ向かう」という例外的な生存戦略を持つものがいる一方で、地中にある「根」はどんな時も変わらず、重力に従い、光から逃げるという基本システムを働かせているのです。
このように、基本ルールである「茎は光へ、根は暗闇へ」を守りつつも、環境に合わせて柔軟にルールを組み替える植物たちの生き残り戦略には驚かされます。
さて、冒頭でお話しした「植物が光の方向に伸びるのは、見えていないものが光から逃げているからぁ」という疑問、その答えはお分かりいただけましたでしょうか?
- 「見えていないもの」とは、目に見えない植物ホルモンのオーキシンのこと。
- 「光から逃げている」というのは、光の当たらない影側にオーキシンが多く集まったことで、片側だけの細胞が伸びていき、結果として茎が光の方へ向かって曲がっていた、ということだったんですね。
もし植物の茎を曲げないように育てたいなら、上から満遍なく光を照射できる育成ライトを使うのがお勧めです。

